千々石休み9「見晴らし墓」

ゆとりある記

夕方散歩中、夫が「おい、あんなとこに墓があるよ」と指差します。バス通りの海側、棚田の上。「行ってみよう!」なのですがどこから行くのかわかりません。バスから降りたおばちゃんに聞くと、「私のうちはあっちだから」と連れて行ってくれようとします。でも両手に大荷物、この分だとお墓まで行ってくれそうでわるいので、「あ、行き方わかりました」とわかったふりをしました。で、なおも上り口を捜します。

直線で進むうちに、製材所に来ました。ここから見上げると、墓にはまっすぐです。「畑の中を行けばいけないこともないけど、車でぐるっと回ったほうが」とおじさんが心配してくれます。もう夫は、畑のふちを歩き始めました。道なきところを墓へ、墓へ。背中を、製材所のおじさんが見つめているのが分かります。(製材所からのこの写真は、たまたまこの冬に撮っていたスナップです)

マムシに出くわすこともなく、やっとこ墓場に着きました。山の上、見晴らし満点の墓地です。こんなに高いところまで来ても、水路があり、どこからかの水が流れています。普通なら眺望満点のホテルや、別荘が建ちそうな場所。しかも一番高いところの墓、てっぺんまで行くと驚きました、墓石のほとんどは海に向いています。

その様子はリゾートに来た人たちが、夕日の沈む海を群れだって眺めているようです。海風が涼しい、だ~れもいない。でもなんだかとってもにぎやかな、怖さのない明るい墓地。

すこしくぐもった夕日が、わりあいのんびり落ちていきます。あらまあ、つるつるした墓石のおでこにピカッ!夕日か映っています。日の丸のハチマキをしたようでもあり、インドの女性のおでこの赤い飾りのようでもあり。冬場は墓石のおでこは夕日の移動とともに、順番に温かくなるのでしょう。夫は、明るさがいい感じになるまでジッとカメラを構えて待っていました。

写真を撮り終えて、ぼちぼち帰ろうと坂を下って行くと、製材所のおじさんが夕飯前のウォーキングのようです。「2時間もずっと居たんだ、この2人・・・」とは言いませんでしたが、ただただ笑っておいででした。