ハナニラ

美味しい話題

高知県梼原町の農家民宿で、初めて「ハナニラ」をいただきました。ニラの花とも、鑑賞用のハナニラとも違う、食用の「ハナニラ」です。民宿のおかみさんが一本ずつ摘んで、サッとゆでて、そこに宿の鶏の産みたて卵とお醤油をかける。そして、小鉢を持って勢いよく食べる。シャキシャキの食感と甘みがたまりません。お刺身やステーキなどより、ずっと贅沢な尊いおもてなしだと感じました。

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民宿は「いちょうの樹」というところです。高知県でも農家民宿のはしりだそうです。なので、さすがのおもてなしなのでした。到着したのは夕方、仕事で宿泊なので夕飯をお仲間と急いで食べて役場での会議に出かけました。そそくさといただくにはもったいない、地元の味が並んだ食卓です。

梼原はお肉でも知られるところ、地元のローストビーフの薄切りや、猪肉も美味しいのですが、私が魅了されたのは「ハナニラ」でした。初めてだったからです。

出張ではとかく野菜不足になります、なので、この美しい緑色が私には宝ものにみえました。ここに、生卵とお醤油をかけるのは、この宿の発案のようです。こんな山のなかまで来て、町と同じお刺身など出たらがっかりですが、そんなことはしない。さすがの農家民宿でした。

夜、もう一度、絶品の煮物でビールをいただきました。この時、目を引いたのは、食卓の後ろの大きな床の間風の飾り棚です。置かれた古い小引き出しに「USB」と書いたシールが貼られているのがほほえましい。そして大きな日本人形は「私が結婚のとき持ってきたもの」と、おかみさん。隣の人形は「どこかでお父さんが買ってきたもの」。柱に下がるのは、「お客さんが私を呼ぶときに使うといいって持ってきてくれた鈴」、よくお祭りの神事などで使われるシャンシャン鈴ですね。「フクロウの編み物もお客さんから」「貝殻の飾りもお客さんから」「木の壺はどうしたんだっけね~」この塗りの番傘は何であるんですか?と私。「外人さんに浴衣を着せてこの傘をさして、記念写真撮ると喜ぶのよ」このピエロは?「オルゴールになってて、子どもらが喜ぶから置いてる」その他、様々な額飾りもずらり。

このお宿を訪れるお客様の思い、この宿の歴史が折り重なった、素敵な素敵な飾り棚です。「こんな散らかっているところ、恥ずかしい。写真撮らないで~」と、おかみさんは笑うのですが、私にはこのスペースがここの心臓のように思えました。

かつて、ある有名高級旅館に泊まった時、そこの主から「宿はあまりにきれいに整えていると、お客さんが緊張する。だからわざと崩すんですよ」とうかがいました。同じく、ここではその崩しが自然体で行われているのでしょう。もし、一人でここに泊ったとしても、ここに飾られたものものと会話しながら、楽しい食事ができそうなのでした。

翌朝、おかみさんに畑を案内していただきました。「ハナニラ」は一本ずつ伸びた花芽を摘むのだそうです。(写真はピンボケですがこれを一本ずつです)私が気軽にワシワシと食べていた小鉢の量だけ、「ハナニラ」を摘むにはどれほど時間がかかるのか・・・。急に、おかみさんに申し訳ない気持ちになりました。

卵をいただいた鶏に挨拶しながら、またまた急いで宿を出発をしたのですが、こういう民宿では、もっともっと時間をとって、農体験をさせていただくのが本来でしょう。バタバタ泊ることは失礼だったわけです。

 

昨夜はこの宿のバーベキュー施設で宴会があったようです。見事に実った田んぼを眺めながら、清流の音を聞きながら、地元のジビエやとれたて野菜でバーベキュー。こういうところがあると、都会とは違った交流時間が過ごせるでしょうまた私の口を、「いちょうの樹」まで運ばねばなりません。そして、あの飾り棚の前で、ゆっくり食べてリラックス。それが農家民宿なのですね。

ハナニラは、美味しいだけでなく、お腹もすっきりさせてくれたのでした。万歳。