香りの器展で

ゆとりある記

マスク生活では、香りに鈍感になります。トイレの芳香剤や、焼き肉屋さんの匂いくらいしかわからなくなります。そんななか「香りの器展」に行ってきました。紀元前からの、世界の香りの器関係の展示は見ごたえがありました。豪華な香水瓶や蒔絵の香道具などは、昔の上流階級のもの。でも、美術館を出たところの梅の花は、私たち現代庶民のもの。清々と嗅いでまいりました。

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新橋駅からすぐの「パナソニック汐留美術館」、正式な名前は「香りの器 高砂コレクション展」。高砂香料工業株式会社が長年にわたり収集してきたものの中から240点が展示されているとのこと。昔、香道のお稽古をしていたこともあり、いい展覧会には“鼻が利き”、出かけてきました。

予約まではしなくて良いのですが、感染防止をきちんとされていて大人数が入らず、安心感があります。香水瓶とえば、私のようなおばちゃんが多いかと思えば、男性や若いカップルもおいででした。小さな香りの小瓶に、みんな静かに見入っている。たまにはこういう時間もいいですね。

撮影可能なところはもっぱら有名な作家の作品群。私的には、有名デザイナーが活躍した高級香水瓶より、はるか昔の入れ物の方が気になりました。古代の香りは、香油。乳香。神への捧げものであったり、お洒落というよりも神に近づくため身体に塗るもの。紀元前10世紀のころからの物が展示されていましたが、香油壺は土器や石の容器。土器なら染み出てくるだろうし、石なら彫るのが大変だったでしょう。古代の王様や后が塗った香油は、どんな香りだったのでしょう?

撮影OKのエリアではいきなり、18世紀のマイセンのミニチュア陶磁器となります。この間に、古代ローマでガラスの瓶が作られ、瓶が活用されていきます。写真はありませんが私がひかれたのは古代オリエントガラスのフラスコ型の香油瓶。1~3世紀ころのものだとか。もとはどんな色だったのか、2000年の時を経て、表面が銀化して銀色なのですが、紫や青みがかり、そこに赤や白、緑の色も混じっている。どんな人がどんな風にこの瓶を使っていたのか?と思います。瓶も、今こうやってたくさんの人に見つめられるとは思はなかったでしょう。

アルコールと水を分離する蒸留技術が完成し、いよいよ香水文化がフランス王侯貴族の間で花開き、その後には、エミール・ガレ、ルネ・ラリックなどが腕を競う、ゴージャスな香水瓶が現れます。下の写真はあまりにも有名なルネ・ラリックの香水瓶「ユーカリ」。長く下がったユーカリの葉が瓶の栓になっているユニークなもの。

どれを見てもため息なのですが、この頃はまだまだ、香りは上流階級のもの。庶民には縁遠いものだったはずです。展示には日本の香道具や香枕、香割道具などもあり、蒔絵や漆のすばらしさも含め圧倒されます。日本は日本で、独特の香り文化を築いてきたことがよくわかりました。

一気に現代を思うと、なんだかやりきれなくなります。香りはいつの間にか、大量生産されるようになりました。洗濯洗剤の香り、仕上げ剤の香り、トイレでは使用後に香りのスプレーで消臭という日常です。秋の香る花の代表キンモクセイの花の香りをかいで「あ、トイレの匂いだ」と子供が言ったとか。

こんな香り文化に誰がした?!と思いますが、仕方がない。せめて、花の香りに敏感でありたいと、美術館外の梅の花を見上げたものです。