「また会いにきちゃった」

ゆとりある記

こんなタイトルの写真展を見てきました。東京下町の商店街を撮った作品です。「いらっしゃい!」「また来たよ」というやり取りが聞こえてきそうです。お金とモノのやり取りだけでなく、笑顔と心のやり取りがある。それが大規模店と違う商店街の魅力でしょう。コロナ禍で忘れていた、人と人の繋がりを思い出しました。三枝道夫写真展、新宿「OM SYSTEM GALLERY」で5月16日まで。

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写真展会場に入ろうとすると、「お、いらっしゃい!」と笑顔のおじさんが迎えてくれます。卵が安い!ダンボール箱のきれっぱしにマジックで手書きした値がきに、人柄が偲ばれます。

作者の三枝道夫さんも「いらっしゃい!」とお出迎え。三枝さんは78歳、もとは理科の先生です。墨田区、荒川区、足立区を数年巡り商店街を撮ってきたそうです。なぜ?という答えは、作品を拝見すればわかります。

三枝さんの後ろからこちらを見ている八巻のおじさん、こういう人いるよなあ~。漬物屋さんだそうです。ごちゃごちゃした店内が、散らかっているようで整っているようで。こういう店先は人を安心させてくれます。きっと漬物も安心の味でしょう。

総菜屋さんかな?照明は丸出しの蛍光灯。おばちゃんの腕まくりの輪ゴムがいいなあ。「やわらかいイカゲソ天」買いたくなります。揚げ物屋さんも美味しそう。こういう奥さんと一言二言を話すだけで、ほっこりする。

いなせなたこ焼き屋さん。もたもたしていると「ホラ、元気出しなよ!」と気合を入れられそう。果物屋のおじさんには「あんたね、人生そんなに甘くないよ」とお小言を言われそう。最近、他人を気にかけて怒ってくれる人はいません。商店街ではこうしてハッパをかけられる、ということもあるでしょう。

年季の入ったリヤカーで魚を売っているご夫婦。仲がよさそう!見本にしなくちゃ。

青いトタンと銀色の排気筒の前で赤いシャツ、これから仕込みだそうです。隣の学者のようなおじさんは、メッキ工場の職人さん。いまどきメッキ工場なんてあったんだ!と驚きです。プロという感じの眼差し、この職人さんの作業を一日中見学したくなりました。

厚紙で箱を作っている人、機械部品を作っている人。その使っている機械が黒光りしていて存在感があります。生身の人間の勘や経験が、機械と一体になって何かが出来ていく。ITやメタバースなどくそくらえ、という世界ですね。

自転車屋さんで背中を出しておしゃべり。どんな話題なのでしょう。私もしゃがんで仲間に入れてほしくなります。

こんな人間サイズの商店街があると、そこでは手作りのお祭りや縁日があったりします。いつもの商店街がもっとワクワクキラキラして、そこで大人も子供もくつろぎます。駐車場で食べた味、忘れないでしょう。

年中行事を知る、体験するのも商店街ではないでしょうか。七夕や節分、花まつり、クリスマス、などなど。そういう世話も、街の人たちがしています。

もともと消えそうだった商店街、コロナ禍で一気に店が無くなってしまったところもあるでしょう。一方、遠くに出かけられないから、身近な買い物ならいいだろうと妙に観光客が集まっている商店街もあります。でも栄えているところには、チェーン店や携帯屋さん、ドラッグストアなどがスマートに進出し、売らんかなの雰囲気が満ちていて、ここにある笑顔や人間臭さはありません。

身体が不自由でも、心が折れそうでも、買わなくても、商店街は抱きしめてくれる。それが純正商店街だと私は思います。やさしさの装置、商店街。それに気づかせてくれた写真展でした。

(三枝道夫写真展「また会いにきちゃった」、新宿「OM SYSTEM GALLERY」で5月16日まで。10・11日休館、入場無料)