「潜在景色」

ゆとりある記

群馬県前橋市で、この写真展を見ました。写真技法を使っての現代アートです。廃業し放置されているガソリンスタンドばかり撮った作品。側溝の、昔でいう“ドブ板”ばかり撮った写真が壁面に延々と続く作品。こういものを見せられると、視野には入っているけど見ていない景色があると理解できます。帰り道ふと気づくと、街に「スローシティ前橋」というフラッグが。往きには気づきませんでした。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

もと、デパートだったという美術館「アーツ前橋」の建物。おもしろい白い曲線、内部もおしゃれなデザインです。世界で活躍する若手の写真家6人の作品が並ぶ企画展「潜在景色」でした。出迎えてくれたのは、おびただしい“どぶ板”写真。こう表現するのは失礼ですが、それほどに、普段、目にしながら意識して見つめないモノたちです。

道路際の側溝だけでなく、畑の横の水路や、海辺の小さな渡り板まで。どれも確かに「橋」なのでした。何かと何かを繋いでいる。そこを繋ごうと意志を持った人が、何かを置いて繋いでいる。その行為と、それを使って渡っている人々の日常が迫ってきます。

こんなパッチワークのような作品もありました。何万枚もの写真を撮って、それを切り張りして作ったコラージュ。あ、東京タワーだ。新宿ののっぽビルだ。うちはどこだろう?と見ながら、普段見えないこうした様々な風景が、瞬間が、毎日同時に起こり、今を作っているということがわかります。このコラージュのような時間の連続が、流れているわけです。

同じ手法でイタリアのある川を表し、掛け軸の様に仕立てた作品も。こういう表現をずっと続けている作者のパワーに驚きました。

廃業したガソリンスタンドがずらり。この作者は、パイプラインを撮っている人でもあります。地球上に延々と張り巡らされたパイプライン。そこを通って運ばれた燃料の行きつく果ては・・・。人口の減った田舎には、経営できなくなったガソリンスタンドがこうしてよくありますが、最後はパイプラインの先端は最後にこのようなことになっている。成長ばかりを考えてきた世の中の末路を考えます。壊して、安全な土に戻すにもお金がかかるから放置して、みんなで見ないことにする。そんな風景なのでしょう。全国60箇所の廃スタンドが並んでいました。

古いサッシの窓や、扉に写真を焼き付けた作品。この窓や扉の向こうには、違う時間があるかのように思えます。

実におもしろい様々な試み、前橋や地元に多少なりとも関係ある作品や人たちの作品です。もっと早く知って何回か見に来たかったなあ~。3月5日までです。https://www.artsmaebashi.jp/