農家ツーリズム

ゆとりある記

栃木県那須町の「なすとらん倶楽部」が企画した、農家を訪ねる小旅行に参加しました。とはいえ、ホウレン草農家と、近くのウド農家を訪ねただけ。距離の移動は、ちょっぴりです。

でも、初めてのことを知ったり、体験したり、普段と違う空間で過ごしたり、田舎のご馳走を味わったり、温かな栃木弁に包まれたり。異文化としての距離感は大きく、大変な旅をした満足感でした。

食と農と観光の連携を目指す町民組織「なすとらん倶楽部」とのお付き合いはもう長いものですが、昨年からこの倶楽部では、「おいしいツーリズム」という“食と農”を体験する観光を実験し始めています。

各地で着地型旅行の実施は華やかですが、ここでは即、東京に呼びかけて集客して、というわけではなく身内で先ずは楽しんで、お稽古を積んでという、ゆっくり型でことをすすめています。

昨年は「寒ざらし」がテーマでしたが今回は「那須おば」。那須の農家のおばちゃんと交流しましょうという企画です。私は東京のおばちゃん代表?として参加しました。残りの参加者5名は皆、倶楽部のメンバーです。

最初に行ったのはホウレン草農家。農家としては「今は何もないから、来てくれても・・・」ということだったそうです。寒さが厳しくハウスで覆った畑でも出荷に適するまで育っていない、確かにそうでした。

でも、参加者はおしゃべりしながらホウレン草を2~3本抜かせていただくくらいで満足なのですから、農家が「何もない」とおっしゃるハウスで十分なのです。

ない、とはいえ、「うちで食べたり、人にくれたりする用」という、ホウレン草、その隣には小松菜、そして水菜が青々と茂っています。


早速、収穫させていただきます。よっこらしょと抜くのかと思ったら、根が張っていて抜けません。無理に抜くと大事な葉がメロメロになります。小さなカマで、根元を切るのだそうです。コツがわかると、これは楽しい!「ズゴッ」という根を切る感触がたまりません。


ついでに、出荷ビニールに詰める作業も。秤に広げた肥料のビニール袋の長方形の切れ端の上にホウレン草を置き、まるめて包装袋に入れ、そのビニール切れ端だけをつまんで抜き取ると、扱いにくいホウレン草が見事に袋におさまります。「那須おば」の知恵?!

ストーブを囲んでのお茶の時間、そのテーブルも、都市にはない農の空間でした。

続いてうかがった農家は、今、ウドがそろそろ収穫期を迎えていました。巨大なウドの根を、芽があるところをうまく分けながら、苗床(というのでしょうか?)に並べ、土をかけ、さらに分厚く籾殻で覆う。

ビニールハウスの温度をさらに電熱線で上げると、ウドの芽はすくすく。生命力の塊のような芽が籾殻の上に顔を出していました。これで、40cmも伸びているのだそうです。

こちらの農家の奥様、というよりおばちゃんの手作りご飯をお昼にいただきます。掘りごたつにみんなで顔を寄せ合って、ワシワシたべる田舎料理のおいしいこと。

さっきのウドが、活き作りのようにみずみずしく、香り気高く、甘く、フルーツのようです。キュウリの古漬け、唐辛子の漬物、白菜漬け、浸し豆、煮しめ、ウドと小松菜の胡麻和え、手打ちうどん、けんちん汁、お赤飯。

「おいしい、おいしい」の連発です。素材も味付けもおいしいのですが、会話もおいしい。栃木弁での冗談、思い出話、料理の説明、みんながわいわい話し、笑い続ける中に身を置いている心地よさ。

よく、農業と観光の連携というと、すぐに「○○狩り」という体験が上げられますが、そういう時代は終わりました。新鮮な野菜を安く沢山ほしい、それはそうなのですが、これからはそのためだけに農家を訪ねる、というのではありません。

土のにおいや、古い家具や、農家らしいしつらえや、話題や、笑顔、言葉、声、全てが都市部と違うところを感じ取って、その豊かさに混ぜていただく、ということがもう一つの収穫なのだと思います。

地元の「なすとらん倶楽部」メンバーでも経験のない体験、食べたことのない味、見たことのない農作業なのですから、東京人にはなおさら遠い文化、未知のことです。

観光施設やハード整備など入りません、こんなツーリズムのお稽古を繰り返していきましょう。