「三奇楼」の時間
古い建物を改修し、地域おこし拠点やゲストハウスにする動きが盛んです。
奈良県吉野町の三奇楼もそのひとつ。料亭旅館だった建物が感じのいい宿泊施設になっています。
旅館ではないので基本、自分で自分の世話をする。地元の店で買い物し食事を作ったり、布団を敷いたり、片づけたり。
暮らすように泊まる2泊3日は、半住民になったようないい時間でした。
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「三奇楼(さんきろう)」があるのは上市というまち。
この上市が妙に古くて絵になるところだということは、前のブログで書きました。
これです↓
http://noguchi-tomoko.com/modules/yutoriaruki/details.php?blog_id=394
京都から近鉄特急で橿原神宮前まで行き、吉野方面に乗り換えて「大和上市」という駅で下車。
駅から古い街並みをぶらぶら15分も歩けば、三奇楼です。
真っ白い蔵と、アーチ形の門が目印。
昔の絵葉書を見ると、明治のころのこの建物は4階建てだったそうです。
吉野川に面していて、伊勢街道を行く旅人の宿、筏師たちの宿として栄えたとか。
鵜飼見物や宴会や、いろいろに使われていたのでしょう。林業が栄えていたので、まち自体がにぎわっていたのでした。
その後、個人宅として使われていましたが、たまたま雨漏り修理に入った地元の工務店がこの建物に惚れ、買い取ったのだそうです。
そして工務店オーナーが関わる「上市まちづくりの会リターンズ」の企画・運営によりさまざまな改修が進みました。
重い門を押すと、そこには昔の空気が流れています。
梅の木につぼみが膨らみ、玄関にはお正月飾り。ガラガラと引き戸を開けて声をかけると、「は~い」とここの管理人娘“わたらいちゃん”(と私は呼んでいます)の声がしました。
彼女はもとは吉野町の地域おこし協力隊、今はここに住み込みで“女将”?をしながら、かわいいイラストや文章を書く仕事もしています。
玄関にはあったかな履き心地の良いスリッパ。
「お邪魔します」というより「ただいま~」の感じ。
共用の台所にはおくどさんが。
でもこのかまどは使いません。快適なキッチンがきちんとあります。
冷蔵庫には調味料類がいっぱい。これは使っていいし、中央のテーブルにあるコーヒーやお茶、ミカンまでご自由に、というシステムです。
古いものを大事にしながらも、快適に泊まれるように工夫してある。
このスイッチもいいでしょう~?
昔の電気が今まで保存されていて、通電したのではないかと思ってしまいます。
トイレの流し。
この細かいタイルが並ぶ曲線のライン、これもまたいいでしょう~?
この洗面台ごと、もらいたいくらいの美しさです。
今回泊まった2階のお部屋、8畳半。床の間があって、掛け軸があって、こんな書も飾られ、向こうの部屋には懐かしい衣文かけが。
昔の家なので、そりゃあ寒いのですが、ファンヒーターでじきに温かくなりました。
部屋の横は広い廊下、その向こうにはウッドデッキ。夏なら即ここに出てビールですね。
かつてこの建物にあったデッキを、改修の際に復活したそうです。工務店さんの指導のもと、学生さんたちが手伝って。
わあ~、その時手伝いたかったな~。
台所の食器棚です。わかります?模様ガラスが。
このガラスのはまった調度品を使える嬉しさ。
ここから湯呑を出して、番茶を淹れる嬉しさ。
ダイニングです。ここでご飯を食べるもよし、パソコン仕事をするもよし。
大きな木のテーブルと、木の床の上のラグ。明るすぎない照明。
今回は、私の仕事の打ち合わせにも使わせていただきました。
お風呂です。こういうところは新しい、すこぶるよろしい。
浴室の壁は吉野ヒノキ、脱衣場は吉野杉。ほんわりと木の香が湯気と混じって森林浴気分です。
今回同行の夫は、自分でお湯をはり、入り、ご機嫌に温まって「木のお風呂っていいな~」。
「あら、よくお風呂に入れたわね?」と私。
「だって、あそこに書いてあるもの」と夫。
そうなんです、あちこちに“わたらいちゃん”のメモがあり、宿泊者は迷わず、行動できるようになっています。
ダイニングのかわいい本棚。考現学の本やら、図鑑やら。
夫は、つげ義春の本を見つけて、「懐かしいな~、久しぶりだ~」
1階の、フカフカソファに沈み込んで読み始めました。
朝です。さすがに冷えます。
ウッドデッキに霜が降りています。川の水が気温より温かいのでしょう、もうもうと湯気が上がっています。その湯気が霧のようになびいています。
「霜、撮ろう!」と叫んで、寒いデッキに出ました。木のベンチに霜のクッション?
レトロなガラスの灰皿から、虹のような光が。きれいなきれいな三奇楼の朝でした。
お日様は廊下を温めてくれています。
ここでずっとトロリとしていましょうか。なんて思っていると「朝ごはんできたよ」と夫の声。
とはいえ、近くの店で昨日買ってきた果物とサンドイッチなのですが。
熱々のコーヒーがおいしいこと。
久しぶりの広い畳、そこにさす日差し。
こんな光景、昔見たっけ、、。
あれ、フォンヒーターが?
「“わたらいちゃ~~ん”灯油終わった~~~」
「は~~~~い」
誰かにペコペコしてもらいたい人、シャキシャキとサービスしてほしい人、ピカピカの現代風がいい人、はここは向きません。
使い込んだものや、木の肌触りや、川の流れや、ガタピシの音などが好きな人にはたまりません。
多少不便でも、うろうろしても、それを楽しめる人には聖地です。
路地を歩き、出会った人とお辞儀をしあい、人のうちの洗濯物や花を眺め、そんなことをしながらここをねじろにする滞在。
繁忙期を避けてのお泊りをお勧めします。
三奇楼の時間をゆる~く、ほっこりさせてくれる管理人娘さん“わたらいちゃん”。
この人の人柄で、三奇楼も上市のまちも、とっても得していますね。
三奇楼です。↓
http://sankirou.com/"