「野かふぇ おりや」

ゆとりある記

松山さんは、桃農家です。今年、庭先に「野かふぇ おりや」という店を開きました。

“おりや”とは、昔からの屋号。奥様とお嬢さん中心のお店は、果物、野菜がふんだんに使われたアイディア料理がメインですが、和菓子教室や、着物の着付も。そして、松山さんご自身は植物アロマ抽出の体験プログラムを。

ご家族の多様な試みに、これからの農家の未来を見ました。和歌山県紀の川市で。

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松山峰広さんのお名前から、この農園は「松峰ファーム」といいます。紀の川市桃山という地名の、桃の産地です。この写真は帰りに見送ってくださったときのお三人。

お嬢さんの前田千恵さん、お母さんの松山明美さん、松山峰広さん。ご家族はあとお二人、千恵さんのご主人と、三歳の男の子。合計五人です。

クリーム色の建物がカフェ、その後ろの黒っぽい大きな建物が千恵さん夫妻のお家。その右が収穫時期などは桃で一杯になる作業小屋?です。カフェの左にかすかに見えるのが母屋。昔ながらの日本建築、ここでは松山さん夫妻が暮らしながら、農家民宿もやっています。

「昔からの農家には、仏間やら客間やら、使っていない座敷があるんですよ。それをドンドン民宿にすればいい」というのが松山さんの考え方。嫌がるのはたいてい奥様なのですが、ここの奥様は違う。明美さん、どーんと来い!です。

茶人であり着付の資格もある明美さんは、つい先日、市役所で「ふるーつ茶会」という催しをしたばかり。座敷には、そのなごりが。「茶碗をよくよく乾かさないと、悪くなるから。茶会は後片付けが大変」とニコニコ。

乾かされているのは千恵さんが絵付けをした、果物柄の器。横には果物の枝を削って作った楊枝もありました。


さて、まずは腹ごしらえ。今日のランチは?わ~~、柿の器がかわいい、おなますが入っている。器も皮ごと食べちゃいました。野菜もたっぷり。

「忙しくするのは嫌だから、料理も接客ものんびりやりたいから」と、千恵さん、明美さん。したがって、開店は土日のみ、ランチは予約制です。

毎回、野菜ふんだんのスープや肉料理、サラダ、果物が具になった手打ちの生パスタが出ます。これまでに柿、洋ナシ、イチジク、桃、いろいろなものがパスタに。手作りパン、デザートと飲み物もついて1200円。

いいのでしょうか?という安さ。「そこらへんにあるものが材料だから、楽しくてやっているからいいんです」とお二人、またニコニコ。

いつもカフェは母娘の世界ですが、この日はご主人峰広さんの企画した体験プログラムがありました。「癒しのアロマ水は、自然からの贈り物」というタイトル。庭のテーブルには不思議な装置が並んでいます。

最初に講義、「五感のなかで臭覚が鈍化している。臭覚は脳の記憶に関係する“海馬”に直接働くので、認知症の改善になる」というような本格的なお話。なんだか、松山さんが学者さんに見えてきます。

精油の抽出方法のなかでも、この日の装置は水蒸気蒸留法というもの。家庭用の圧力釜に樹の葉や枝をたっぷり入れ、過熱して蒸し煮するようにして、その蒸気を蓋の穴から集めます。器具を前に、枝をチョキチョキ切っていると、なんだか魔法使いになった気分です。

これはヒノキ。

圧力なべが活躍です。

それをリービッヒ管というらせん状のガラス管に通し、周囲を水で冷やすと、蒸気は水滴に。そして水滴を集めた水の上には、わずかに油のようなものが浮きます。これが精油。混ざっている水はアロマ水になります。

千恵さんも明美さんも途中から登場、「これを使えば~」とか「どのくらい時間かかる~?」とか。峰広さん、かしましいお二人を軽くかわしながら「おい、お湯持ってきてくれ~」と助手に使います。

「まったく、家族で何も打ち合わせしてないから。はははは~~」と、トコトン明るいご家族三人。周囲には癒しの香りが満ちてきました。少し手についたのを嗅ぐと、森のような香りがします。

用意されたスプレーに入れて、この日はヒノキとヤブニッケイの2種類ができました。東京のマンションでスプレーすれば、たちまち部屋が森に変わりそうです。そこらへんにある樹からこんないい香りが採れるとは・・。

予定より多くアロマ水ができました。と、峰広さん「あ、ドリンクの瓶なら密閉できるな。皆さんまず飲んで、洗ってください。それに詰めましょう」と提案。で、みんなで松山さん愛飲のドリンクをごっくん!おかしい~~!

さらにもう一つのプログラムは柚子で作るポマンダー(香り玉)です。“そこらへんにある”柚子の固いのを選んで採って。


スパイスの「グローブ」を周りに刺します。「わあ、こういうの初めて。このグローブはどこで手に入るんですか?」と参加者。「そこのスーパーよ」と明美さん。また大笑いです。

作り終えて、お菓子作家の千恵さん作の柚子のたっぷり入った柔らかい水まんじゅうのような羊羹を、ぷるるんといただきました。なんともいい時間です。

「今日、父の誕生日なんです。それにあわせて体験を企画したみたいで」と千恵さん。「あら、誕生日何てすっかり忘れてたわ~」と明美さん。では、と、みんなでハピーバスデイ♪を歌います。峰広さん嬉しそうに照れています。

農家というのは、お百姓さんという言葉もあるように、たくさんの技術や知恵の宝庫です。特に、最近の農家さんは、新しい今風の技術やセンスがある。

千恵さんはパソコンの使い手、かつアーチスト。看板の絵や文字は彼女作です。Facebookやパンフレットなども担当。季節のフルーツ和菓子を作ろう、という講座も。

明美さんは最近、着物を着て、果樹の下でポートレートを撮影しませんか?というプログラムを企画。その様子は、「野かふぇ おりや」のFacebookで報告されているはずです。

果物を作る・野菜を作る・周りの自然を活用する×アイディア料理を作る・創作和菓子を作る・アロマ水を抽出する×着付・お茶・写真・スクール形式=ハッピー ヽ(^。^)ノ))

足し算でなく掛け算で、これからの農家の魅力は広がっていくのでしょう。そして何より、仲のいい明るい家族がいつも一緒にいられるということが、一番の原動力になる、と、ここに来て思いました。

ゆっくりしたくなったとき、笑いたくなったとき、美味しいものが食べたくなったとき、またうかがいますね。「おりや」さんのアロマ水は「明るい家族」と「未来の農家」の香りです。