雲仙「食」談義

スローライフ運動

雲仙市での「地方創生フォーラム」に関わって、私も含め皆さんが話題にしたのが“食の魅力”です。県外からの参加者に「雲仙どうでした?」と聞けば、まず、「美味しかった」という返事が戻るでしょう。

肉じゃが、かまぼこ、豚汁、高菜漬、新米のおむすび、採れたてレタス、いずれも素朴な味。それを囲みながら、だからこそ、地域おこし談義が味わい深いものになりました。
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ここで何が美味しい、まずい、という話をしたいわけではありません。「食べ物」がいかに地域と連動しているのか、地域を語る道具になるのか、また「食べる」ということは、どれだけ地域を感じ取れるのか、人の心をつかむのか、そして隣の人・向かいの人と繋がれるのか、ということを言いたいわけです。

今回、雲仙に入って、最初に口にしたものは、豚丼でした。雲仙のひとは豚をよく食べます。チャンポンに入るのも豚、これは甘辛味をつけた柔らかい豚肉に胡麻をたっぷりまぶし、ご飯の上に、そして中間にもびっしり敷き詰めてあります。観光客も寄りますが、地元の人も食べるお店で。

レジの女性が、「そう?初めて食べた?美味しいでしょ?大盛りもあるの。ここではよく食べるよ」と自慢してくれます。これはフォーラム前日の話。夜は、今度は雲仙の牛肉の焼き肉なのでした。ここでもお店のおばちゃんが「安いででしょ、うまいでしょ」と自慢してくれます。なぜかあるイワシの丸干しもおいしかった~。

さて、フォーラム当日。飛行機で着いた登壇者や参加者の方々がマイクロバスで食べたのが雲仙特製弁当。雲仙の地域野菜でこぶのある高菜「こぶ高菜」というのがありますが、それの漬物を作っている女性グループが用意してくださいました。

この「こぶ高菜漬け」は日本のスローフードとしてイタリアのスローフード協会から認定されているもの。

巻き寿司やおかずの中に様々使われていて、ピリッと辛く存在感があります。コンニャクもこのグループの手作り品。こうして煮しめやコンニャク稲荷になるまでに、何年がかりの手間暇がかかっているのか。高菜も無農薬なので大変でしょう。作った人の話を聞かなくとも、このお弁当一つで、このグループの食べ物を作る姿勢が伝わってきます。

雲仙の良心をおなかに入れて、みんなが雲仙と一体になった瞬間でした。健康な雲仙が、外来者の身体に染み渡ったわけです。

雲仙市内に入ると、どこまでもどこまでもジャガイモ畑が続きます。暖かい雲仙では、ジャガイモが年に2回とれる。9月にイモを植えた勢いある葉っぱの畑には、そろそろ花がつこうとしていました。

このジャガイモ畑のなかに、記念写真が撮れるところがあるといいなあ~。または高いところから展望できるところがあるといいなあ。ジャガイモ・ミュージアムなんて、雲仙のジャガイモ文化を学べる・楽しめる体験施設があったらどんなに楽しいでしょう。

ジャガイモ展望台はなかったけれども、棚田展望台はありました。山の斜面に石を積み、石を積み、先祖代々が築いてきた田んぼは見事に美しい。

ここで記念写真ですが、ああ、棚田は写らない・・。近くでこの棚田を守り、米を作っている方々が幟を立てて棚田米を売っていました。

一緒に、目の前で握るおむすびがあったら、この時期売れるだろうな~~。重いお米は買わずとも、その場で食べる塩むすびは、小さくても高く売れるでしょう。それで美味しいとなると、重くても買っていく。来年、私がお店をだそうかなあ~なんて考えます。

雲仙温泉のある山の上の方までバスは上がりました。ここにある有名ホテル「雲仙観光ホテル」で小休止。昔の雲仙リゾートのお話などを伺います。

高熱の温泉が豊富な雲仙です。温泉はお風呂に使いますが、ホテルや旅館では蒸気の上がる地熱の高い地面にパイプを長く引き、地熱で水を熱くしてそれを、暖房や生活温水として利用するそうです。エコですね。

しかもこの呼び方が面白い。「燗付け」というそうです。お酒のお燗と同じ字で呼ぶことが、何とも温泉場らしい文化です。このことをアピールすればおもしろい、「このお部屋は燗付けして暖めています」なんてね。

全国からお取り寄せ人気の高い、このホテルのゴルゴンゾーラチーズケーキ。クルミもたっぷり入っていました。雲仙には庶民的な表情から、こうしたおすましの優雅な世界まであることが食べ物から分かります。

10月31日、この日の昼間には、真面目に熱く4つの分科会がありました。それぞれ地元の方が20人くらい、さらに傍聴者も多く、時間が足りない!でも、これからの雲仙を語るいい場になりました。

で、その続きをさらにみんなで宴の中で話す「夜なべ談義」です。食べながら、飲みながら話せば、さらに本音の輪ができる。よそ者は「おいしい~!これ何ですか?」から始まって、質問攻め。そうなると、難しい地域おこしの話題にはなかなか乗れなかった人も、口が開く。食べ物のこと、食べることは、誰でもが参加できる地域おこし話題なのです。

この夜の主役は肉ジャガ。雲仙では「ジャガイモ」などと丁寧に呼ばない。「ジャガ」です。昔はクジラの肉でも煮たとか、豚でも作ります。まあ、なんとほっこり美味しく優しく煮てあるのでしょう。ジャガの味がしっかりしている。出島という品種だそうです。究極の肉ジャガづくり教室など、いつかしましょうね。

ジャガ農家のお兄さんのスピーチ。かっこいい~~!都会のヒョロヒョロのパソコン男子とは違う、土の匂いのする、それでいた今風のお洒落感のある立ち姿。この人のジャガを食べたい、と心から思います。ジャガイモボーイ、ジャガ王子、たくさん会いたいなあ。

海で獲れる小魚は、かまぼこになります。地元では「かんぼこ」と呼びます。黒砂糖の入った甘い味、ピリ辛味、豆腐のたっぷり入ったさっぱり味の「豆腐かまぼこ」もありました。

「かんぼこは、健康にいいの。豆腐かまぼこはサラダにもいいの」かんぼこ製造の女性が語る「かんぼこ話」はずっと聞いていたいほど。この方を講師に、「かんぼこスクール」などやってみたいものです。ただ、食べて、買って帰るだけではつまらないもの。トコトン知りたい「かんぼこワールド」ですね。

でた~~~~~~~~!棚田米のおにぎり。さっき田んぼを上から眺めた、あそこの田んぼでできた米が、キラキラ輝いて。こういうものこそ口を運んで、飛行機に乗って食べに来る価値あるもの。惚れ惚れする甘いもっちりお米でした。

棚田でお米を作っている方のスピーチです。棚田と日々向き合って汗を流しているお姿は、凛々しいし、神々しくもあります。やっていることにウソがないから、自信にあふれている。この人からも「棚田米物語」をとっぷりもっと聞きたいと思いました。

地元の豚を地元のレタスとしゃぶしゃぶに。両方の上手さが掛け算になります。「いい豚は、しゃぶしゃぶにした時にアクがでないよ」と豚農家さん。「水が違うからね、野菜が旨くできる」とレタス農家の青年。

東京ではこんなレタスを生で、さらにしゃぶしゃぶでたっぷりと、なんて贅沢はできません。

わがスローライフ学会会長の増田寛也さんも、地元の青年にまみれて美味しい談義。そのお礼も言葉弾みます。

棚田米、こぶ高菜漬け、カタクチイワシの塩辛「エタリ」、芋の味濃いほくほくのジャガ、牛肉、豚肉、新鮮なお魚、山ほど獲れるイワシ類、多品種のかんぼこ、レタスに始まってたくさんの美味しい野菜、ドラゴンフルーツやかんきつ類などの果物、いろいろななスイーツ、などなど。

海と山と温泉と、それを活用し愛する人のいる雲仙は、食のツーリズムの可能性が一杯です。地元では、ここの人、ここのものを「じげもん」と言いますが、「雲仙じげもん研究会」を立ち上げて、逸品を開発研究しながら、人も磨いていく、そして交流につなげていく、雲仙じげもんツーリズムを始めましょう。

地元のものを食べながら、地元の人と出会い語り合いながら、食べ方や食文化を学びながら、の交流です。

そこでの時間は、単に儲けるための観光おこしではなく、食を媒体とした、語り合い、本物の地域間交流になるはずです。それはとりもなおさず、雲仙の地域おこしになるでしょう。

雲仙へ出かけて、食べたり、しゃべったリ、口を運んで交流しましよう。また行きますよ、雲仙。