入湯税でまちづくり

ゆとりある記

釧路市阿寒湖温泉では、この4月1日から入湯税が150円から250円になりました。

観光まちづくりを進めようとしても、お金がない。極寒の地で、どんどん街は劣化するばかり。ならば、財源確保にお客様にもご協力を、ということです。

このお金で、温泉場にコミュニティバスが走り、商店街で使える地域マネーも出現。これは、英断だと思います。

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阿寒湖温泉とは、もう長~いお付き合いです。昔は、「まりも倶楽部」という名の女性グループを立ち上げたり、お世話をしたりでずいぶん通いましたが、最近は年に一度、何人かの方々と伺って、会議の席で気づいたことを発言させていただく程度。

現地の方々は謙遜されて「1年の活動の通信簿をいただくような場」とおっしゃいますが、こちらが評価するなどとんでもない!伺うと、いつも全国に先駆けた観光まちづくりの取り組みをされていることに驚きます。

今回伺ったのは、年度末も本当の末、3月31日のこと。ここで「4月1日からの入湯税の値上げ」が説明されました。「ええ?明日からそうなるんだ」とこちらは驚いて聞いていたのですが、実はこの話はもう何年も前からあり、それを阿寒湖温泉の方々は諦めずに研究し、実行まで進めてきていたのです。

そもそも入湯税なんて、温泉に行けば当たり前にあって「払ってはいおしまい」とそれ以上考えないものです。払ったお金がどう使われているのか、観光客も温泉場の人たちもあまり深く考えていなのが普通なのではないでしょうか?

財団法人日本交通公社(現:公益財団法人)の2011年5月「温泉まちづくり研究会」の報告によれば、

<そもそも入湯税は、①環境衛生施設、②鉱泉源の保護管理施設、③消防施設その他消防活動に必要な施設の整備に要する費用、並びに④観光の振興(観光施設の整備を含む)に要する費用に充てることを目的とし、日本全国で課税団体が約1000団体、237億円(2008年度決算額/市町村税総額の0.1%)の税収を上げている。>とあります。

そして、<小規模な自治体にとっては大切な自主財源であり、できる限り一般財源的に活用したいという意向は少なくな
いものと推察される。しかしながら、これを温泉地の観光まちづくりにより多く活用できるとしたら、その効果、及ぼす影響は小さくない。>としています。

確かに、今こそ観光の時代と叫ばれる割には、観光協会など観光関連の組織が使えるお金は少なく、会費収入も減っているはずです。温泉のある土地は、これを活かさないともったいないですね。

一方、住民は地方創生やまちづくりに開眼し、自分のまちが温泉観光地であることと自分の生き方を重ね合わせて、前向きにまちづくりや交流おこしを考えるようになっています。

実は全国的に、既存の観光業者よりも、柔軟で様々なアイディアを出したり、おもしろい動きが住民側に起きているように私は思います。

ここに多少のお金があれば、住民の力も借りて、ぐっと前に進められるのに・・・。そこで入湯税だったわけですね。目的税でありながら、④の目的、観光振興に活用されているわけではないのなら、それを正す。それと同時に、今の金額では足りないのなら、値上げしてでも、観光振興に役立てるべきだ、と。

先の報告では提言として、<1.目的税である「入湯税」の使途について、市町村に情報公開を求める。2.入湯税の地元還元を意識し、「観光まちづくり」への配分を高めるよう要望する。3.現在の入湯税をかさ上げし、その新たな税収部分を「観光まちづくり」に活用する>としています。入湯税を有効活用して、温泉地の観光まちづくりの安定的財源にということです。

阿寒湖温泉はこれを実行しました。市当局と相談し、議会の承認も得て。温泉場の大手6ホテルの宿泊客限定ですが4月1日から100円アップになりました。良くやった、五重丸!です。

新聞に“全国で一番高い入湯税に”なんて書かれましたが、なあに、“全国で一番素敵な温泉観光地”になればいい、と私は思います。

住民が観光に参加する時代になったということは、観光客=どこかの住民です。と考えると、お客様が納得いく使い方を示せば、むしろその観光地は「良識ある値上げに踏み切って、観光まちづくりを本気で進めている立派な土地」という評価になっていくでしょう。というくらい、自信を持って進めていけばいいと思います。

新聞記事には“市は年4800万円、10年間で約5億円の税収増を見込んでおり、増税分は新設する基金に積み立て、周辺の観光振興に充てる”とあります。

これだけの財源が確保できれば、住民参画の発案がどれだけ前向きに進むことか。

阿寒湖温泉では、4月1日から、既に、無料循環バスを走らせ、温泉場を観光客も住民も移動できるようにしました。また、「まりも家族コイン」という名の地域通貨のようなものを
観光客に分けて、地元商店街で買い物をすると、アイヌの昔ばなしが聞けたり、コーヒーがいただけたりという動きを起こしています。

将来的には温泉場の「駅」機能のある施設整備や、外国のお客様に向けての対策、景観環境整備にも使うと張り切っています。

会議の翌日、つまり「入湯税値上げ」になった記念すべき日に、地元、阿寒湖温泉場を、先の「まりも倶楽部」の女性たちと歩きました。

これから春になる阿寒湖は、まだ厚い氷に包まれて、観光船も走っていません。寒さが厳しいので、商店街を歩く人もいない。でも、女性たちと話していると、可能性を感じます。

立派な彫り物のある閉店した民芸品屋さん、「ここに昔の阿寒湖温泉の写真などを飾って、手作りミュージアムにしたらどうかしら。若いお母さんたちと一緒にやりたいね」

猛烈な雪でやられた店や看板、「少しずつ何とかしなくちゃね。寒さや雪の大変な暮らしそのものをお客様に伝えることも観光資源にしなくちゃね」

障害のある方々が始めたお店を覗いて、「こんな、ブティックできてたんだ。もっとみんなで街を歩かなくちゃ。お店を覗いておしゃべりしながら歩こう」

なんだか、これからがキラキラしてきます。

お金がないから観光まちづくりが進まない、それでストップしないで、自主財源確保に乗り出した阿寒湖温泉です。行政に頼るばかりでなく、自らの力とワクワク感で、街を良くしようという住民、女性たちがいる限り、大丈夫ですよ、必ず全国の見本的な温泉観光地になりますよ。

※この建物は観光協会も入っているコミュニティ施設。ここの調理室はじめ全体の造りには「まりも倶楽部」の女性たちの意見がずいぶん反映されています。これからのハード整備もそうなっていくといいですね。