紀の川市の「ジャムおじさん」

ちょっとしたこと

男性が料理に目覚めると、妙に凝る人がいます。それは趣味の領域だからかもしれませんが。これまで、蕎麦打ち、米粉料理、お菓子作り、魚料理、漬物、などに“はまった”おじさんに出会いました。

それぞれに講釈が素晴らしく、とみに美味しい。夢中になる姿は微笑ましいものです。今回、知りあったのは「ジャムおじさん」甘いお話を伺いながら何種類も舐めさせていただきました。
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ここでちょっといい話を時々書きますといっていたそのシリーズです。

私が和歌山県紀の川市に通っていることはもう何度も書きましたが、そこでできたお友達が「彼は建築家だけど、ジャムおじさんなんですよ」と、その方のことを伺っていました。

最初は「ふ~ん」くらいでいたのですが、その友達の家にうかがった時の朝食に、巨大な桃ジャムの瓶が当たり前にボンと出てきた。

妻が無造作に出す、それを夫がいつもの習わしのように、力任せに蓋をねじって開ける。「空いた~?」「温めてくれてたから」「うん」

今朝は保存していた桃ジャムの新しいのを開けたらしいのですが、その巨大なビンを普通に受け入れている生活に、この二人暮らしのジャム文化はどうなっているのか?と思ったわけです。

ジャムはそのジャムおじさんから届いたもの。「冷蔵庫の一段は全部こういうジャムですわ」とのこと。巨大なビンがずらりと並ぶ様子が目に浮かびます。

残念ながら、そのジャムを食べないまま、ジャム入りのスムージーを飲んでそのお家をおいとましたのですが・・・。

そしてついに、先日その正真正銘のジャムおじさんのお家に、先の夫婦とうかがうこととなったのでした。宴会後の夜、10時頃です。

建築家のお宅だけあって、素敵な造りのリビングで、深夜のジャム舐めが始まりました。

でたのは、イチゴ、桃、八朔、あと一つ何だったかなあ??
とにかく酔っぱらっていたのですが、すべてが美味しかったのは覚えています。

ジャムおじさんは語ります。「はじめはこの人の(隣に座っていた奥様)ジャム作りを手伝っていたんです」「それが、ある日、建築仲間から『果物を分けてくれる農家を紹介してほしい』と言われて」

ご存知のように、紀の川市はフルーツの産地です。なのでお仲間は、新鮮で安い果物を欲しかったのでした。

「それが、その男が身体の大きいごつい人で、そういう人が綺麗なジャムを作るんですよ」「綺麗なジャム?」と私。「イチゴでもね、イチゴの形がちゃんと残っていて液も澄んでいるような」

なるほど、ジャムに綺麗か綺麗でないかがあるとは。私は安いか高いかだけでした。で、農家を紹介するうちに自分も始めてしまったというわけです。

産地というのは凄いです。八朔がほしいとならばコンテナで来る、桃などもドサーッと。農家の忙しい時期はジャムなど作っている時間はありませんから、少し傷のついた桃などは持って行ってくれた方がいい、ということになります。

山と果物が手に入るから、自然、ジャムも山とできる。それを分ける分ける、それも大ビンになる。しかも季節が変われば
次の果物ができるから、次々と作業は続く。というわけで、先の夫婦のお家では、ジャムの大ビンが冷蔵庫一段にズラリとなるわけでした。

何て話を聞いている間、私はパンやらビスケットやらにジャムを山と塗りたくり食べ、舐め続けます。「こんな時間に、こんなに食べていいのかしら」なんて言いながら。

お連れの友達夫婦は「ここに来るといつもこうなのよ」なんて言いながら、寡黙です。夜も遅いしね、もう疲れているよね、ジャムは美味しいけど、もう話は以前からいつも聞いているもんね。

と、様子は察するのですが、つい聞いてしまったのでした。「グラニュー糖ですか上白糖ですか?どのくらい入れるんですか?」「果物によって違います→→→→」ジャムおじさんの語りは続くのでした。

こういう人に悪い人はいません。本当にうれしそうにジャムのお話をされる。奥さんはニコニコその様子を見ている。きっとお二人で、この素敵なおうちに甘い香りを一杯にして、大きな鍋を覗き込み、いろいろなジャムを煮られてい居るのでしょう。

美味しいものを作り振る舞う、これからの素敵な男性の姿の一例です。こういう方がもっと増えれば、世の中もっと柔らかく甘くなるのに。

定年退職しても、しかめっ面ばかりして、家で新聞を読みテレビを見るだけ、話題はなく、過去の仕事自慢ばかり。友達はなく、奥さんにも嫌がられる。

都会には身を持て余しているそんな男性たちが山ほどいます。
その男性たちを束ねて、紀の川市に連れていき、ジャムおじさんの洗礼を受けてもらおうか!

チャーミングなジャムおじさんの笑顔を拝見しながらそう思いました。

追:ジャムおじさん、今は「タレ」にも凝り始めているとか。写真のペットボトルに入れているのがその秘伝のタレです。これも、本当に美味しかったです。