斜面の人
長野県飯田市遠山郷に行ってきました。前にもご紹介した天空の集落・下栗の里の人に会う地域観光の実験です。
斜面の畑を草一本ない状態に保ち、ひとり生きる93歳のおじいちゃん。よその人を、芋田楽やおはぎなど山の味でひたすらもてなしてくれる老夫婦。
深いしわの輝く笑顔は、この急斜面で生きてきた自信に満ちています。山が育んだ強靭な人たちにお会いして、最敬礼でした。
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あまりにも有名になった下栗集落、ビューポイントからあらためて見ると、よくこんな斜面に張り付くように暮らしているなあ、と感心してしまいます。
その斜面がどのくらいか、ここに住んでいるアッコちゃんが立ってくれました。
畑の丸太は、土止めでもあり、野良仕事のときに転がらないためのふんばる足場にもなります。
一人暮らしの源吾じいちゃんを訪ねました。地元の“農業博士”と呼ばれているほど、農業知識に明るい方だそうです。93歳で生活するだけでなく、斜面の畑を作っている。元気です!
りんご、大根、大豆、キャベツ、小松菜、ニンジン、サツマイモ、コンニャク、などなど源吾さんの斜面の畑にはいろいろなものが少しずつ植えられています。
驚いたのは、何も植わっていないところもきれいに草が取られていること。几帳面で熱心な正確が、畑に出るんですね。道具類もきちんときちんと。
「秋の草をちゃんと取らないと、種をつけているからね。小さな草でも、その先の茎に、数えたら25個の種があった。それが一本の草の株にたくさん付いているんだから、今、抜いておかないと・・・」理にかなっています。
ニワトリは卵のため?かと思ったら「友達だよ。ほれ、私がクククって言うと、ほらほら、寄ってくるでしょう」と。
続いて訪ねたおうち、斜面の上から覗き込むと真下に栃の実がずらりと干してあります。
ここは、遠山郷の各地域で行われる霜月祭り・湯立て神事が行われるお宮さんの一つ、その下なので「みやした」という屋号の民宿です。
囲炉裏に芋田楽が用意されていました。香ばしい匂いです。
「このイモはね、ここの痩せた土地だからできる味。下ではこんなイモにはならない」とご主人。
なるほど、しっかりした締まった食感のジャガイモは、濃いイモの味がしました。
ご主人は語ります。「昔はここは店をやっていてね。富山の薬売りの人などが長く泊まったりしてね」
淡々と語るお話には、驚くほどの有名人の名も当たり前のように出てきます。この急斜面の集落の片隅にあるこの宿を、どうやって捜してくるのか・・。
芋田楽はもちろんのこと、漬物も栗の渋皮煮もすべて奥様作。「食べるものはね、全部作りますよ」
漬物やクルミ味噌、ジャガイモ、栗、すべて自分達で育てたり収穫したり、作ったりしたもの。物を買うということは、昔はほとんどなかったのかもしれません。
かなり下のほうに降りてきてからもう一軒のおうちにうかがいました。次郎さんとはるこさんご夫婦のお宅です。
母屋の前には広い駐車場のようなスペースが崖の上に張り出していて、ここは遠山郷でマラソンとピクニックをあわせた催し「マラニック」というイベントをやる時には、おもてなしの名所となっているそうです。
そのおもてなしスペースの柵には、竹筒に花が活けてあります。地元の方が教えてくれました、「お客様が来る時だけでなく、いつもだよ」。
いつ、誰が来てもいいように、迎え花が活けてある家。これが本当の「お・も・て・な・し」でしょう。
栗のおはぎときな粉のおはぎ、ケンンチン汁、漬物、おでん、炊き込みご飯、ジンギスカン。た、食べきれない!
「よその人が来てくれるのがうれしい」「ゆっくりして行きな。急がなくていいじゃない」とお2人。
もしも斜面でなかったら、山奥でなかったら、普段から人が交流し、畑もやめて違う生き方をされていたかもしれません。
踏ん張ることなく歩ければ、足腰は弱くなっていたかもしれません。何でも買えれば、作る技術も身につかなかったかも。
人が行かないような民宿だから、しかも湯立て神事がきちんと守られ行われてきた土地だから、有名文化人もぶらりとやってくるのでしょう。
他所の人が来ることが、本当に心からうれしいから、ついつい大もてなししてしまう。自分もうれしいし、励みになる、ということなのでしょう。
また会いたいな~。神々しく、知的で、かわいらしく、ひとなつっこい、そして本当の強さを持つ遠山郷の人たち。
あの斜面で育ったキャベツをお土産にいただきました。今夜もシャキシャキと食べました。みずみずしく、歯ごたえがあり、甘いキャベツ。食べてしまうのがもったいないです。
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