十津川村・谷瀬

ゆとりある記

そのむらは、長いつり橋を渡ったその先にありました。奈良県南部の深い山中、十津川村の一集落、谷瀬(たにぜ)住民約70人。空き家が多く、むらを支えるのは高齢者ばかり。それでも特産の柚餅子をつくり、盆踊りも守ってきました。

むらを歩くと、自然と共に暮らす人々の知恵と、強さのようなものを感じます。清らかな時間に包まれた集落、橋はファストライフとの結界かもしれません。

むらには柚子が植えられ、毎年2000個もの柚餅子が作られます。甘いお菓子の「ゆべし」ではなく、お酒のあてに最高の味噌味の柚餅子。ここでは「ゆうべし」とやさしい呼び方をします。


柚子をくりぬき、中に味噌とそば粉、辛味などを詰め、蒸して吊るす。寒さと風と時間が味を育て、やがてあめ色の旨さの固まりになります。

今年の柚餅子ができあがった翌日に谷瀬を訪ね、民宿に泊まり、翌日の半日、むらを歩いてみました。

朝、畑の高菜に霜が降ります。この霜がまた野菜の旨みを増すのでしょう。谷瀬では今、この辺りの高菜の原種に近い品種を育てはじめています。やがて漬物になり、「めはり寿司」になるのでしょう。

日々使うお榊が浸けてある水が凍っています。でも、空は真っ青、歩きましょう。

ゆるりとした坂道の両側は柚子の木。たくさん実をつけたまま、高いのでとりきれないでいる木もありました。

小さな棚田。いくら手入れをしても、イノシシなど山の獣にやられます。

散歩中の83歳のおじいちゃんに、氏神様までご案内いただきました。「階段だけど大丈夫かね?」とこちらを気づかってくださいます。

登った先の祠はきれいに手入れがされていました。むらにあるそれぞれの神様のお祭りを、毎年きちんとされているのだそうです。

むらの入り口のつり橋へ向かいます。「谷瀬橋」の名をもつ、このむらの象徴。谷瀬の村側から見るとこんな風です。渡った観光客がこの辺まで散策してきたならば、ここはつり橋眺望ポイント。ベンチがあるといいなあ。


谷瀬で泊まっていたので、谷瀬側から国道側にむかって渡ります。普通の観光客は反対コースで来るので、この日の私はまるでむら人になったような気分。思わず、真ん中で寝転がってみました。空が、大きい、大きい。宙に浮いた私の身体が、風に吹かれて喜んでる!

谷瀬のつり橋物語。この写真の文字が読めるでしょうか?洪水で悩まされてきたこのむらは住民一戸が20万円という大金を用意しこの橋を800万円で造ったそうです。

1954年・昭和29年、教員初任給が7800円だった当時のこと。むら人の主体的なむらづくりへの意欲たるや、大変なものだったことがわかります。

国道側から橋を渡った谷瀬への入り口にあるマップ。ここに「○○の里 谷瀬へようこそ」と楽しい散策地図など描きませんか。氏神様まで歩くのはちょうどいいお散歩になります。

橋から再び集落へと向かう途中、ところどころにある不思議なもの?むらの人にうかがうとミツバチを飼っているのだそうです。丸太をくりぬいて、小さな穴から蜂が出入りするのだとか。おもしろ~い。この装置で採れた、谷瀬の蜂蜜をなんとか少しでも舐めてみたいものです。

かわいい階段を見つけました。使っているのかいないのか?ここにオブジェなど飾ったら素敵ですね。

またまた発見のかわいいもの。消防の小屋。もちろんむらを守る大事な小屋ですがデザインや風情がなんともチャーミングです。

畑でおじいさんが白菜を収穫中。「こんにちは~」「は~い、こんにちは~」白菜の外はしわしわでも中は元気。おじいちゃんみたい。


水です。飲めます。

きれいに積まれたマキ。手前の細い枝は剪定した柿の木の枝。よく乾かしたら五右衛門風呂の焚きつけになります。

干し芋。藁でくくってあるのがいいなあ~。食べさせてほしいな~。

日当たりのいい斜面に家が何軒も。たくさん人が居るようで居ない。ほとんどが空き家だそうです。去年奥さんを亡くし、今は一人暮らしというおじいちゃんが空き家の間の道を、杖をつきながらゆっくりと歩いていきます。

おじいちゃんが話していました。「うちから山の上の氏神さんが良く見える。だから毎朝拝むよ。離れて暮らす息子と孫とひ孫が、今日も元気で暮らせるようにって」

つり橋をかけることに始まって、橋の売店の運営、山で採れるマツタケ、名物の柚餅子、いずれもみんなで作業し、みんなのむらの収入にする谷瀬です。むらづくりの原点を見るようです。でも、現実はかなり厳しい。

谷瀬に伝わる盆踊りのパンフレットにこんな一文がありました。“すべて共同で行っている。・・・みんなが参加する今時珍しい村なのである。・・・こんな理想郷であっても十年後の年齢構成を考えると、・・・村の将来も心配である。”このパンフができたのが平成15年、今年がその10年後となります。

つり橋にきた他所の人たちが、むらの中に足を伸ばし、むらの時間をていねいに楽しみ、お土産や野菜を買い、むらを気に入って空き家を利用し始め、泊まったり、住んだり。そんな風にならないか、できないか。

かつて自ら大金をだして橋を造り、踏ん張って、支えてきた谷瀬です。ここは大知恵の出し時、橋を渡ったところにある、ちさいけれど素敵な理想のむらを目指しましょう。

ね。