特訓魚料理

お仕事で

ややこしい料理ではなく、魚料理の基本のきの字を鳥羽市菅島の宿で教わりました。料理教室に行くほどオーバーなことではないけれど、一度プロにきちんと聞きたいことってありますよね。

それに、いまさら周囲には聞けないあまりに初歩のことは、違う土地だと結構平気でうかがえます。マンツーマンで体験学習のお魚料理基本編、こんな観光メニューが今後は育って行くはずです。

海辺の宿で、出されるものをただおいしいおいしいと食べるより、それを作って、料理の技も身につけて帰れればどんなにいいか。そう思いませんか?

自分が食べるものを教材として使うのだから、失敗しても安心です。経営者の協力さえあれば、宿は立派な魚料理教室になるわけです。そのお試しを菅島で体験しました。

港について先ずは、地元の人が魚を買う小さな市場へ寄ります。今日あがったいろんな魚が一杯。本当はそこから選べばいいのですが、今回はメバルが用意されていました。

夕飯用の煮魚と、明日の朝食用の干物を作ります。この日の師匠は、「別館まつむら」というお宿のご主人・松村裕之さん(46歳)。

59歳の私があまりにひどい料理技術でも「あんた、いったい何年料理してるの?」なんて怒鳴らない、我慢強い、苦みばしった方でした。

しかしながら、体験学習ですから、いきなり「メバルのわたを出しますか。同じようにやってください」とお手本が。これがびっくりでした。

今まで私は、魚のハラワタを出すには、包丁でおなかを裂いていたのですが、師匠の教えは「エラに指を入れてね、ギュッと持って、そのままグ~ッと引くと。ほら、ハラワタが全部つながって出るんですよ」「おお~~~!」ハラワタマジック!!!です。

「やる、やる、やりた~い」とメバルにおそいかかり、ご指導どうりにしますと・・。おなかの中身が全部つながって、一気に出ました。メバルは急におなかがペチャンコ。
でも包丁が入っていないので、とてもきれいです。

そして左頭にして、身に切れ目をひとつ。そして、サッと湯通し。「湯沸かし器のお湯でいいんですよ。簡単にね。でもこれをするしないでぜんぜん違うから」臭みが抜け、煮くずれしません。このとき師匠はサッとヒレを立てて、煮姿が美しくなるようにするのでした。

と、ひとつずつ書いたら大変なのですが、煮汁の黄金比率の基本を教えていただき(ふふふ、ここでは明かさない)、煮汁の泡が小さくなったら煮えた証拠、などという極意もご指導いただいたのです。

18歳で家を出てから、ずっと料理をしているのですが、煮魚が不安定でした。海辺の宿に泊まるたびにうまく煮るな~と思っていたのです。それが、見事に今回で自信をもてたことは、大変な収穫です。

一方、干物用のメバルは背開きに。私は関東ですから開きはおなか側からですが、ここでは背中から。これが難しかった。頭から出刃の歯を入れて、背骨にコツンと当たったら、背骨を感じながら包丁を引いてくる。

「わき腹を魚につけるような位置で立つといいですよ」「魚開くのに、立ち方もあるんだ!」

師匠が軽やかにされる動作も、私には、なかなか。迷って最初の歯が入りません。おかげで、メバルの頭にはためらい傷ばかり。それでもエイとやってみると、「いや~、野口さん、うまく引けたね。きれいだ~」と師匠はすかさずほめます。「きれいだ~」というその言葉に妙に感激してしまいました。

開いたら一度臭みを抜く塩をして、それから本当の塩を振ることも知りました。「10分くらい置くとこういう黒っぽい汁が出るから、これが臭み。この作業は大事なんですよ」

私は数々のひと手間を、省いてきたことがわかります。反省しきり、学びは山盛り。こうして、1時間あまりの特訓は終わったのでした。

そして夕飯、私がハラワタをズルズルっと出して煮た、メバル君のすばらしい煮姿。記念写真です。おいしい、おいしい。

もちろんこの土地名物の「医者殺し」(煮魚の最後に熱湯を入れて飲む食べ方)もやりました。作ってもらうより、作ったメバルのおいしいこと。

そして、私が眠っている間に、一晩かかけて乾いて旨みを増したメバルの干物。

いい塩加減、乾き加減、白いご飯にふっくらとおいしいこと。「風の島・菅島」の風は、本当にいい仕事をしてくれます。

師匠ありがとうございました。東京に戻ってから、なんとなく魚を見る目が変わりました。いつも切り身ばかりに手を出していたのが丸のままの魚に挑めます。

しかも、必ずおいしく煮れる、煮汁と煮方を知ってしまったので、何度も菅島仕込みの煮魚を味わっています。この自信が何よりのお土産となりました。

私は基礎の基礎でしたが、もっと高度にお刺身にチャレンジなんて方もあるでしょう。今後、菅島ではだんだんそんな魚料理教室プログラムを整えていこうという雰囲気です。

若い男女や、料理に目覚めたおじさんたち、基礎を知りたいおばさんたち、いざ、菅島へ、魚料理を覚えに菅島へ。