海女のトコロテン

お仕事で

鳥羽市相差(おうさつ)日本で現役海女さんの一番多いところ。今も120人が潜っています。そのお一人の民宿に泊りました。

「潮に流されないように、海草につかまりながら岩ガキを獲るんだよ」元祖キャリアウーマンのお話に、都市部の女性は圧倒されます。

一方、朝いただいたトコロテンは、たくましい海女さんが作る天草スイーツ。なんだかホッとする、かわいい優しい味でした。

普通なら絶対読めない相差(おうさつ)という地名、ここには海女さんのいる民宿がたくさんあります。私が泊ったのは「上耕(うえこう)」というところ、海からすぐ上がったところ玄関を開けると「海女の宿」のプレートがありました。昔、海女さんが持って潜ったという重りも飾ってあります。


夕食は様々な魚介類。ヒラメのお刺身やサザエ、アワビ。ここの奥さん、上村花枝さん(55歳)が身体をはって獲ってきてくれたものばかり、中でも岩ガキのおいしいこと。鯛は半身はお刺身、半身は塩焼き。この塩焼きの身をほぐしてのタイ茶漬けの、これまたおいしいこと。

さて、ここに私はただ食いしん坊としていったわけではありません。以前にも書きましたが、今「鳥羽市宿泊産業活性化推進事業」のアドバイザーとしてうかがっているのです。相差では海女さんから海の食文化を教わる体験スクールができないか模索中、ワークショップのために泊まったのでした。

花枝さんはまだ10代のころ、山陰・城之崎温泉へ観光海女として出向き、そこで女学校のように海女として働きながらお茶、踊り、着付けも身につけたそうです。昔はそんなシステムもあったんですね~。


相差に戻り、20歳で結婚し子どもを産み、本格的に潜ったのはそれからとか。子どもを育て、年寄りのめんどうを見ながら、そして田んぼもやりながら海女をする、加えて民宿も。ああ、私にはできません!なんて反応すると、花枝さんは豪快に笑い飛ばします。

天草も海女さんは獲りますが、これが食べられるようになるには手間がかかります。干して、雨にさらして、さらに乾かして、たたいて汚れを落として、保存。使うときにまた良く洗って、ぐつぐつ煮て、型に流して、固めて。誰がこんな作業を経て、トコロテンにするまでの作業を発見したのでしょう。

天草で作ったものを私は何でも寒天と呼ぶのだと思っていました。そして細く突いて酢醤油で食べるのがトコロテンと。ところがここでは天草から作ったのはどれもトコロテンと呼ぶのだそうです。寒天は、寒い地方で一回凍らせて、できた寒天の元から作ったのを寒天と呼ぶのだとか。(地元食事処の店主意見)

で、そのトコロテンを朝ご馳走になりました。花枝さんが台所で手際よく、スパスパとトコロテンを切ります。これに砂糖きな粉をかけて、これがこの辺の一般的な食べ方。

続いて「コーヒーのも作ったよ」と進められたのはいわゆるコーヒーゼリー風のもの。ミルクをかけてツルルル~。

そして、最後にでてきたのは初めての味。先ずは、お玉で白砂糖をざんぶとすくってかけ、その上から二杯酢をちょろっと。「この砂糖をジャギジャギいわせて食べるの、おいしいよ」びっくりの食べ方なのですが、これがおいしかった。

海で疲れた身体に、甘いこのトコロテンはさぞかしおいしいのでしょう。朝ごはんをたっぷりいただいた後なのですが、3種のトコロテンは完食。

都会のこねくり回したようなバターやクリームのスイーツより、ずっと自然でさらっとした上品な甘味。食べるごとに気持が安らぎます。海女さんが元気で美しい、その理由がわかった気がします。