聖地「利賀村」

スローライフ運動

(深山の中の利賀村)

富山県南砺市利賀村には不思議な力があります。どこからともなく「そんなに急いでどうするの」「人生と向きあってごらん」そんな声が聞こえてくるような。

深い緑とのどかな風景に包まれていると、時計を見る回数が減り、都会の灰汁が流れていきます。そして「小さくても大きなことはできる」という‘利賀力’を授かって帰る。何度も通いたいスローライフの聖地といえるでしょう。

(暮らしがつくる風景がきれいです)

読み方は「とがむら」です。2004年に合併して南砺市になりました。私が最初に行ったのは、1993年のこと。1976年に演出家の鈴木忠志さんが、早稲田小劇場の拠点を利賀村に移し、「世界演劇祭利賀フェスティバル」を行うようになって10年後のことです。

急峻な1000メートル級の山に囲まれ、冬は雪に閉ざされる小さな村から‘世界へ’舞台芸術を発信ということで話題になり、それを静岡県の方々と視察に行ったのでした。

富山駅から曲がりくねる道を登り、細い道で対向車とのすれ違いにおびえながら。「救急の医療が必要な時どうしているんだろう」と車中で話したことを覚えています。

(合掌造りの劇場)

でも、着いた利賀村には、びっくりするほどの人。洒落たレストランで食事し、芝居小屋となった巨大な合掌造りで外国の演劇に触れ、池にこしらえた野外劇場で、夜、雨の中、女優さんが身体から湯気をあげながらの熱演を眺め感動したものです。

利賀村の宿はもちろん一杯で雨の夜道を命からがら富山に戻り、ホテルに入って考えました。「あんな不便な小さな村でも、世界に向けてのことができるんだ!」

その後「世界蕎麦博覧会」があるときき、また訪ねました。蕎麦にこんなさまざまな食べ方があったのかと、小さな村から多様な世界を教わりました。

でも、このとき村内をくるくると回ろうと思っても、谷や山にさえぎられ、同じ村内でも移動が困難な地形であることに驚きました。この村で暮らすこと、特に車の運転ができなくなった高齢者は大変でしょう。

次に行ったのは何時だったでしょう?都市部から利賀村に移った人を訪ねての調査ヒアリング。利賀村のさまざまな発信により、ここと出会った人が、なにかしらの暮らしの道をつくって移り住んでいるのでした。

(ササゲは食べて、カボチャは蒔きます。あるおうちの作業場で)

(豆ガラは焚きつけになります。あるおうちの作業場で)

その後、私は利賀村で見つけたかわいらしく素晴らしい木製玩具を仕入れたり、利賀の赤い蕎麦の実をいただいて蒔いてみたり。なんだかんだ利賀村は私の中に、特別なところとして存在し続けていたようです。

そして今回、「スローライフ・フォーラムinとなみ野」(11月12・13・14日)をNPOスローライフ・ジャパン・スローライフ学会が富山県・砺波市・南砺市と行うことになり、また関らせていただいているわけです。

(中谷さん)

先日、利賀村の地域おこしの核となってきた中谷信一さんに、私たちの勉強会「さんか・さろん」で話してもらいました。「これだけいろいろやっている利賀村でも、人口がどんどん減り続け、集落を維持できなくなっている」とのこと。ズキリ、です。

では、何もやっていないところはどうなるのだろう、なのです。中谷さんは今、財団法人利賀ふるさと財団理事長として、温泉施設や観光施設の運営をしていますが、自分の住む上畠地区15戸の集落を何とか維持しようと地区の催しもしています。

家、座敷、土間、納屋、石積み、畑、風景、そんな集落の日常、風景のなかに現代アートを置いて、楽しみ鑑賞する催し「上畠アートフェスティバル」です。

(村で催しがあると立てる手づくりの幟。これもアート)

「なにかあって、他所の人が来ると年寄り達が元気になるんですよ。でも、じゃあ石垣をきれいにしようなんて作業するのも70歳代の高齢者。4メートルの高さにあがるわけですが・・」「もう、風景すら維持できない」という言葉がまたまた刺さります。

私たちがふわっと行って、「あら、いいところね~」なんていう、利賀村を始めとする日本の過疎地の風景はこんな風になんとか維持しているのが現実でしょう。

(都市では手に入りにくいソーメンカボチャ)

その現実を踏みながらも、都会人は利賀村などに身を運び、身体や心についた汚れや脂を清めさせていただく、そんなことが今、お互いに大事なのではと思います。

利賀村の自然と人に触れるのは、お肉をシャブシャブするのに似ています。清めとともに、教えや学びを得、力を授けてもらい、再び都市に戻る。そしてもちろん何がしかのお礼を、村に置いてくる。定期的に、聖地に出向く習慣を都会と村に作れば、なんとかならないか・・・・、などと思うのですが。

そんなことを含めて話し合う「スローライフ・フォーラムinとなみ野」の「利賀分科会」は11月12日(金)、富山駅13時集合でスタートです。これを機会に、聖地・利賀村巡礼を。予定はこちらです。↓

http://www.slowlife-japan.jp/modules/katudou/details.php?blog_id=100

(岩魚の骨酒を回し飲みながら、ゆっくりと語り合いましょう)"