水源の人

お仕事で

京都府綾部市では、いわゆる限界集落を「水源の里」と呼び替え、応援しています。それが全国に広がっています。私はそのお手伝いで綾部市に通い始めました。市内21ヶ所の水源の里を、まずは次々と訪ねています。移住してきた陶芸家夫妻、ブランド米を作る人、山椒を栽培し商品化している人、水源に住む人は、それぞれに頑張っていたのでした。

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とはいえ、一気にすべてを回れませんので、ゆるりとご案内いただいております。その一つ「水源の里 市志(いちし)」にお邪魔し、皆で整備したという「どんぐりの森」を見たあと、集落入り口に立つ看板を眺めていましたら、ふと近くのお家の洗濯物が気になりました。「子どものものが干してある!」高齢化が進む地で、これはうれしい光景です。そして横には、長靴が干され、シカの角もずらり。奥を見ると、立派な古民家。「ごめんくださ~~い」と入っていくと、そこは焼き物の工房も兼ねたお家でした。

大阪の方から移住された森和良さん・森明子さんご夫婦が、土間で作陶中でした。和良さんは猟もされるとか。で、シカの角ずらりなわけです。お子さんは2歳。この集落で久しぶりのヤングです。食器も作られますが、私が気に入ったのは、家の形のアロマポット。可愛いお家のなかにロウソクを入れれば、小窓から灯りがこぼれる仕組み。この家シリーズはティーポットやマグカップ、シュガーポットなどいろいろあるようです。「森の種陶工所」の名で通販をされているようです。ここで毎日、陶製の新しい家が作られる。同じように本当の家が少しずつ増えるといいなあと思いました。(「森の種陶工所」のご案内カードのアップ写真をアイキャッチ画像に使わせていただきました)

話している間、「かり~~~~~ん♪ かり~~~~~ん♪」とやわらかい澄んだ音がしています。何かと思ったら、焼き物でできた風鈴。火箸がぶら下がって音が鳴るものは見たことがありますが、焼き物のは初めて。ずっと聞いていたくなる、癒しの音です。その足元では、メダカの泳ぐ水槽を、じっと見ているカエルちゃん。この音を聞きながら、水源で育つ子どもも動物も、幸せでしょうね。

 

別の日に訪ねたのは、「水源の里 下替地(したのかち)」。今年、水源の里として手をあげたところ。でもずいぶん前から、ここでは山椒を栽培し、それを使った商品を作ってきているそうです。「山椒の里 悠々工房したのかち」にうかがうと、代表の四方久野さんが待っていてくださいました。“遠くからアドバザーさんがみえるのでよく冷やしておいた”ということで、集会所はエアコンが大活躍中。そこで、四方さんが山椒物語を語ってくださいました。

はるか昔、この地から山椒を江戸幕府に献上したという記録があるらしく、もともと山椒に縁のあったところのようです。山椒は今でこそ、チョコレートに入れたり、フランス料理に使われたり、日本のハーブ、スパイスとして世界に知られていますが、昔は貴重な献上品だったのですね。山椒復活の必然性はあったのですが、そんなことはお構いなく、集落自治会の先輩たちが、平成6年に「さんしょ園」を整備し、今に至るそうです。

商品は山椒の実をふっくらと煮た瓶詰「実山椒」、「さんしょみそ」、ピリッとおつまみにいい「山椒あられ」など。「山椒の実がとれるのはほんの1週間。早すぎても遅すぎてもダメで、樹の様子を見ながらだから、予定が経たない」そうです。確かに工場で計画通りに実るわけではない。「しかも山椒は根が浅いので、急に枯れたりする。日照りに弱いため、周囲に栗の木を植えた」とのこと。

商品化ではデザインなどにもこだわって。「こっちと、こっちの文字の形、感じが違うでしょ。名前も考えたの。説明書はおおいそぎで何度も直してもらって作った」「食べ物は試食があると売れるね」など四方さんは実に工夫して、山椒での地域おこしに取り組んでおいででした。「せっかく栗を植えたから、栗の何かを作ろうかと思って・・」次なるは、栗の商品が産まれそうです。

土産物屋さんでただサッと買うのと違い、こうして山椒話をうかがうと、山椒の実の一粒が実に貴重に思え、重みが出てきます。小粒でもピリリと存在感ある活動がこれからも続くのでしょう。

このほか、ブランド米を作る「水源の里 水梨」、シャガやミツマタの群生で知られる「水源の里 老富」などなど、それぞれに人口は少ないものの、住んでいる人たちが何かしら頑張って集落を維持しているのでした。

「上流は下流を思い、下流は上流に感謝する」が基本理念、水源の里はいま全国141自治体に広がっているそうです。今度はその全部を、訪ねたくなりました?