和宿origin
今年泊った京都府綾部市の宿を2つ紹介しましょう。まず今回は1つ目の「和宿(なごみやど)オリジン」。originとは、起源・原点という意味。ここでのんびりし自分の原点を振り返ってほしいとのことです。お母さん、娘さん、お婆ちゃんの3人で経営の普通の家のような民宿。3人のおしゃべりに混ぜてもらいながら、ご飯を食べる。近くの温泉に入る。畳に寝る。それだけのことなのですが、確かに和み、原点に触れた思いだったのです。次回は「今や」です
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ここに泊ったのはまだ、コスモスや彼岸花が咲いている頃、暑さが残っている秋でした。少々ばて気味だった私には、何でもない田んぼが広がる夕暮れの景色がこのまま身を預けたいように魅力的でした。もっと魅力だったのは、入り口の小さな黒板の「野口様」の字、そして家を囲む大きな石に着いたふこふこのコケ。
私よりお若い、ここのお母さんが、近くの温泉へ行くことを勧めてくれます。それさえ億劫に思っていた私でしたが、「送迎しますよ」の声に誘われて、綾部温泉まで連れて行っていただきました。
都会の立ち寄り湯と違い、ゆったりしています。卓球台もマッサージチェアも空き空き。お風呂もそれほど混んでいません。入っている人も地元の方らしき方々が多い。その話に耳を傾け、小さな女の子のしぐさに見とれ、ヨモギの入ったお湯に浸かっていると、身体も気持ちも緩んできました。
再び、お宿に送っていただき、お母さんは高校生の娘さんのお迎えに。私はお婆ちゃんと2人で夕食をスタートです。お婆ちゃんと呼ぶには失礼な、素敵な雰囲気のマダムと、ゆるりと会話しながらごはんです。もともと鹿肉が好きな私ですが、ここのはまた特に美味しい。聞けば、丁寧に丁寧に筋や筋肉を包んでいる薄皮などをとるのだそうです。お婆ちゃんの手仕事が美味しさの秘密でした。
そのうち、お母さん、娘さんが帰宅。私と一緒に皆でテーブルを囲みます。3人とも、お客さんと一緒にご飯を食べるのは日常当たり前の様子です。娘さんは学校の事、お母さんはご近所の事、お婆ちゃんはお料理の事など、普通の会話が流れます。私はふむふむと聞きながら、この3人のもう一人の家族のような気になっていました。
当たり前のように、薬草茶が出てきます。飲むと、きつくない穏やかな味。廊下にも外にも、何かが干してあって、きっとこれもあれもお茶になるんだろうなあ~と思いながら、久しぶりの畳に寝ました。外では虫の音が大合唱。眠りました。
翌朝、お母さんは、早出の娘さんをまたお送りに。その間に私は朝ごはん。そうだ、朝ドラの『虎ちゃん』が今朝、最終回!見ましょ見ましょ、とお婆ちゃんと。クリクリの目玉焼きとふっくらごはんの美味しいこと。
昨晩寝る前に??と思った、板戸に書かれた数字の謎が解けました。ここの板戸を外して、畳の大広間にして、時々、ヨガの教室をやるらしい。板戸を外すと、順番にはめないと元に戻らないので、そのための数字だそうです。
う~~~~~ん、なんて優雅な暮らしでしょう。温泉はいつでも入れる、空も空気も綺麗、薬草茶を飲んで、美味しいご飯を食べてヨガをやって。冬には薪ストーブで温まり、何か作って・・・。ここでとれた材料で和菓子作りのお教室もあるとか。作文で全国的な賞をとられたここのお嬢さんと、もっとゆっくり話したかったなあ~。でも文化祭前の高校生は忙しいんだなあ。ここの薬草茶おいしいなあ。お茶の入ったふりかけも美味しそう。
などなどダラダラしているうちに、出発しなくてはなりません。こんな風に和ましていただいて、私は何か恩返しをしたくなっていました。そんな風に思わせてくれる宿なのでした。身体が休まったのはもちろんですが、私が少し触れられたオリジン・原点は、家族の繋がり、心の休息だったのかもしれません。