テンちゃん
前回に続き、今年泊った京都府綾部市の印象深い宿、2つ目です。名は農家民宿「今や」ですが、私には「テンちゃんのいる宿」です。テンちゃんはこの宿の座敷犬。食事のお相手をしてくれたり、頭を撫でさせてくれたり。愛犬と泊まれる宿ではありますが、私のように飼えない身としては、久しぶりにワンちゃんとの時間を過ごせるうれしい宿でした。散歩に同行すると「テンちゃん、何を注視しているの?」と、私も一緒に遠くを見て、鼻をクンクンさせてしまう。何でもない田んぼの風景が、犬目線で観察できました。
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この大きな屋根の家が農家民宿「今や」さんです。100年くらい前の農家を一度解体し、移築されたもの。それを今のオーナーさんがさらにリニューアルして、素敵な民宿にされました。
太い柱が立ち、見上げると、これまた太い梁。これだけで、異空間に来た感じです。
お父さん(ここではこう呼ばせてください)が建物を案内してくださいます。立派な土蔵には、昔のナガモチやタンスなどがずらり。土蔵の2階の丸窓から覗くと、右には、一棟貸ししてくださる離れがみえます。贅沢にも、この日、私一人で泊まる今宵の宿でした。
テンちゃんです。天チャンなのか、てんチャンなのか、男の子なのか女の子なのか。秋に泊らせていただいて今頃このブログを書いているのですから、記憶は定かでないのですが、とにかく「テンちゃん」です。ね、いい子でしょう。
お父さんが散歩に私を連れ出してくれました。おばさん一人のお客です。お父さんと2人で散歩は照れますが、テンちゃんも誘ってくれました。お宮さんに寄って、鹿よけの柵を開いて田んぼの中に入って。いつものコースらしく、テンちゃんはスタコラ歩きます。
それでいて、歩いては立ち止まる。ゆっくりおいでと私を振り返ってくれる。そして、遠くを見つめる、鼻もヒクヒク。この日は翌日が、この辺の村祭り。あちこちで幟が立ったり、人々がいつもと違う動きをしている。そんなことが気になったのかなあ~。
テンちゃんが気にしてくれるので、小さな流れや、早くも出た月や、星や、木々のシルエットや、ご近所の猫や、そんなものもの事々が一緒に目に止まります。なんだか、私の嗅覚も鋭くなったみたい。
戻ると、お父さんに抱かれて足洗い。「今や」さんには昔からの井戸が二つも健在で、テンちゃんはいつも井戸水利用のようです。このテンちゃん用の大きな石の流しで、私も歯磨きをさせていただきました。
お母さんが手作りの素朴なお料理を次々と出してくださいます。お刺身も凄かったのですが、ここの畑で採れた、黒豆枝豆のオリーブ油炒めの美味しいこと。夕飯には仕事のお仲間もやってきて、お酒ナシのいい宴会になりました。朝には、手作りのヘシコなども出ました。発酵食品大好きの私には、唸る味。野菜作りもお料理作りも熱心なお母さんです。
お父さんがデザインのお仕事もされているだけあって、素敵なものを大事にして、もてなしてくれているのが分かります。古い欄間から届く影絵のような隣の部屋の灯りと影。いつまでも見とれていたくなります。ガラス戸と障子に挟まれた廊下は懐かしく、昔のように雑巾がけをしたくなる。外からは、部屋までキンモクセイの香りが届きます。
ちょうどよく柔らかくて少し硬い、マットレスの心地いいこと。(後から同じマットレスがほしくてうかがったくらいです)一人でゆっくり眠れました。
朝。私が、大喜びしたのがクモの巣でした。「今や」さんの玄関にある、まん丸のシンボルツリーに白いモハモハが二つ、三つ、四つ、、、。
昨夕にはなかったクモの巣は、どうやら毎日セッセとクモさんが作るらしい。そこに朝霧がのって、まあ、綺麗なこと綺麗なこと。なんだかトトロの目玉のようにもみえます。このまま東京に連れて帰りたいくらい可愛いクモの巣でした。
テンちゃんは、お母さんとお父さんの会話に必ず入ります。わかっているよという顔つきがなかなかいいのです。こうして、いつもお客様と付き合い。他のワンチャン客と仲良くし、散歩したり、会話したり。もてなし犬のお仕事をしているのでしょう。
外国の方も多く泊る宿です。この素敵なクモの巣も、クモさんのもてなし方なのかもしれません。
バイバイ、またね~。私は、お母さん、お父さんとご挨拶しているのですが。ウン??テンちゃん、またまた、どこかを見ているのでした。