縁側家族の美しさ

ちょっとしたこと

この夏、一番印象深かったのは、あるジャガイモ農家の縁側で過ごした時間です。「農家として何かこれから面白いことをやりたい」と語るお父さん、「いつか田舎料理の店をやるのが夢」と笑うお母さん。その間で3人の子どもが甘え、絡まっています。手作りの紫蘇ジュースを飲み、花火をし、犬がしっぽを振る縁側。まじめに汗をかく笑顔の毎日の積み重ね、美しいなと思いました。

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おなじみの雲仙市小浜、山側に入ったところです。農業景観が広がりますが、お家を探す目印がない。この辺なんだけど~~。坂道を駆け上がり、宮田ファームはどこですか?と聞こうとしたら、そこが宮田さんのお家でした。

坂道の途中のフェンスにやかんがぶら下がります。何だろう???呼び鈴代わりにカンカンと叩くのかしら?水を入れておいて何かに使うのかしら?

こんにちはと、作業小屋を覗くと宮田さんが緻密な作業中でした。ブロッコリーの種まきです。宮田さんはジャガイモ農家ですが、そのほかにもいろいろ作っています。

この巨大な機械は何に使うのでしょうか?こういうものを操縦し、真っ黒に日焼けして畑に向きあうお父さんは、頼もしいですね。青白い顔をしてヒョロヒョロと地下鉄に乗り、パソコンだけで暮らしている都会の男とは違います。

珍しい農家の現場には、知らないものだらけ?これはナニ?これはナニ?「これは、牛の餌!」フ~~~ウン。そんな会話が続きます。宮田さんのところは前もって申し込みがあれば、その時期、季節の農作業を農業体験としてやらせてくださるとか。体験しなくても、道具や物を説明していただくだけで、実に興味深いのでした。

宮田佐久美さんと宮田和晃さんです。「人が大好き。いろんなことに興味がある。面白いことをやっていきたい」と語る和晃さんは、「今年ハバネロを作ったんですよ」と見せてくれました。超激辛のピーマンのような野菜です。

「作ったけど、どう食べればいいのかと思って」といたずら小僧のように笑います。佐久美さんはお料理好き、ハバネロの煮びたしを作ったようですが「辛すぎちゃって」と笑います。なんだか、二人で楽しんでいる感じ。

「いつか料理屋さんというか、お店をやりたくて。といっても田舎料理ばかりなんですが、そういうのが好きなんです」と佐久美さん。二人で畑にでて、ずっといろんなことをおしゃべりしながら作業をするとか。都会のマンションのサラリーマン夫婦の会話時間と内容と、全く違う日常なのでしょうね。

農家というと、とにかく作業と生活に追われ、大変できついという印象が強いものですが、宮田ファームのこののどかな雰囲気はなぜでしょう?かといって、観光農園のようなチャラチャラした感じはなく、ごく普通の農家さんです。お二人の、夫婦のキャラクターがこのお家全体に満ちているのかもしれません。

「この縁側に座っると、目の前に春は桜が咲くんです。ここからの景色がきれいなんですよ」と佐久美さん。縁側という空間も、都会にはないもの。外と中の間の、あいまいな空間。こんちは、と他所の人も顔を出せる解放感ある場所。それでいて、ここで干し柿を作ったり、子供はお絵描きもしたり。日本の家の大事な空間だったのに、だんだんなくなっています。

さあ、子どもたちが帰ってきて、家族が勢ぞろい。縁側で記念写真です。いいなあ、こういう家族。こういう場所。こういう雰囲気。「なんだか昭和って感じですね~」と宮田さん。後ろには消防の法被がかかっていました。

ブロック塀の穴ぼこに多肉植物が生えています。「何もせわしないのに、育ってくれるの~」。

「ローズマリーの花は乾かして、ハーブソルトにするんです~」と語る佐久美さんのお店がいつかできたら、ぜひ訪れたいと思います。

なんだかとってものどかな家族にお会いして、縁側でゆっくりして、おおらかになった気持ちです。坂を下りて振り返ると、佐久美さんと子どもたちが見送ってくださっていました。

こういう家族が当たり前に暮らし、当たり前に子育てできる国が素晴らしいのだと思います。そして、こういう家族が国の宝なのだと思います。そういう日本にしていかなくては、と強く思いました。