ゆる〜い魚売り

ちょっとしたこと

よく行くスーパーの鮮魚コーナーの、女性の売り子さんが気に入っています。魚屋なら「ヘイ!いらっしゃい。何にする」と、勢いよく迫られることが多いのですが、彼女はゆるい。「今日の〜、おすすめは〜イワシで〜す。いかがでしょうか〜〜」と、ソフトな小声で、少し手を振りながら、遠くを見つめて。この「ゆるい」さんのおかげでゆっくり吟味でき、つい買ってしまうのです。

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「ゆるい」さんは年のころなら50歳くらい。きっとパートで働いておいででしょう。売り場のなかの魚を下ろしたり、パックにしたりする作業をしているところの方々とは出で立ちが違い、ある日は「そろそろ休憩に入っていいよ」なんて言われていることもありましたから。

ここで「ゆるい」さんは、独特のご自分の売り方をされているだけなのです。お店の方からすればもっとテキパキと魚屋らしくとイライラしているのかもしれませんが、買う側、特に私には「ゆるい」さんがいい。だって、魚屋さんに行っていきなり「はい、何にする?」と言われても、今着たばかり、見ているところなの、と言いたくなりますもの。だからそういう怖い魚屋さんには私はいつしか行かなくなりました。で、ここが気に入ってるわけです。

彼女は全くお客様を無視しているわけではなく、私がキョロキョロしていると「イワシは煮ても焼いてもいいですし~~~~、今日は生きがいいので~~~、お刺身にもできます~~~~」と情報をゆる~く発信してきます。で、つい私も「このイワシ、3枚におろして皮も剥いてもらえます?」なんて切り出すと、「は~~い、かしこまりました~~~」と表情は変えずにイワシをつかむ。

時々は私を向いて「そのイカ~~、この前、わたし、里芋と煮たら美味しかったですよ~~~」と話してくれたりする。でもそれ以上「いいお天気ですね」とか「毎度!」なんて言わない。いい距離感なのです。

少し離れたところでは、ウナギを売らんかなとVTRが回っています。人はいなくて映像なのですが、とにかくすごいボリュウムでうるさい。どんなにウナギ愛があるのかとか、ウナギの健康管理をしているとか、世界中にウナギを広めたいとか、同じセリフが毎日大音量で流れていると、内容は覚えてしまいます。うるさいから結局そのウナギは手にも取らないで、その場を通り抜ける。「ゆるい」さんとは真逆なのです。

先日、知人にこの話をした時に「それじゃ、その人、見に行こう!」という反応でした。小声でのんびりが集客する、何があるかわかりませんね。今回は写真はとれないので、絵を描きました。少し若くしてあります。